大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪家庭裁判所 昭和59年(少)3181号 決定 1984年4月25日

少年 T・N(昭四四・九・一九生)

主文

この事件を大阪府中央児童相談所長に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、昭和五九年四月三日午後四時三〇分ころ、大阪市南区○○×丁目××番××号煙草販売店「○○○」(経営者A子)方において、A所有の簡易ライター二個(時価合計二〇〇円相当)を窃取したものである。

(適用法条)

刑法第二三五条

(処分の理由)

一  少年の知能は新田中B一方式での指数七九で普通より稍劣り、中学校入学時から怠学が始まり中学二年二学期からは不登校状態が続いたため、基礎学力の不足も目立つており、将来職業選択などの面での制約を受けるおそれはあるものの、日常生活上は特に支障のないものと考えられる。

二  少年の性格特性上の問題点としては、年齢に比し未熟、幼稚で自己統制力乏しく、劣等意識、弱小感、被害感を抱いていて基底的気分が暗く、いらいらした気持があつて情緒的安定性を欠いている点が顕著であつて、その要因は、<1>少年は、その二歳時後頭部に受けた火傷のため同部位に直径五センチメートル位の円形の禿を後遺するという身体的外見的負因を背負うこととなり、物心ついてから常にそのことが脳裏から離れず劣等感を抱いていたのに心ない友人達の嘲笑、侮蔑の的となつて劣等感、被害感を更に助長し、学校内外で段々孤立化して友人も少なく、怠学から不登校へと進み学校不適応を生じてきたこと。<2>家庭においては酒好きで次々と転職を重ね生活力の乏しい父と、不就学ながら努力家で自己に自信を持つ勝気な母との夫婦仲が長年に亘つて円満を欠き、少年の躾・教育も充分なされなかつたこと。<3>少年の母は自らの経験から学習面を余り重視せず学校に対しても構えた姿勢をとつたため学校側の指導との間に一貫性を欠き、前記知的能力と相俟つて少年の学習意欲を醸成できなかつたことから学力不足を招き、この点でも弱小感を抱いてきたことなどが複合した結果であると考えられる。

三  以上の諸点を考慮すると、少年に対しては施設に収容して規律ある集団生活を通じて社会性を身につけさせる一方、個別的に躾のやり直し、学力の充足等を図ることも考えられるが、本件に見たように少年の非行性は未だ初期の段階にあること、初めての観護の措置により保護者ともども自覚が芽生え、少年においては学習の必要性、家庭内暴力の無価値さを認識してきており、母も少年の就学の必要性についての考えを改め、また少年の禿の治療についても居住家屋を処分してまで植毛手術その他外見的負因の除去、軽減につき真剣に対処する決意を示し、家庭での積極的受入姿勢を執つていることなどを総合考察すると、本件を家庭裁判所の保護事件として取扱うよりも児童福祉法上の措置に委ねるのを相当と認め、少年法第二三条第一項、第一八条第一項、少年審判規則第二三条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 岡田春夫)

少年調査票<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例